白川下流部の洪水は3時間前に予測可能

主要部分は24年前に既に開発済でした。 

1.はじめに

九州北部豪雨で、白川が氾濫し逃げ遅れる人が90名ほどいたと報道されました。熊本市の担当者は、河川の水位を監視していましたが1時間で約3メートルも急上昇したので、対応が間に合わなかったといわんばかりでした。(NHKニュース、クローズアップ現代)もし、予測されていても多くの人達を避難させる情報伝達は厳しいものがあります。本報では、予測可能性と情報伝達について考察します。

2.予測可能性

白川は、漏斗のような形をしており、阿蘇に降った雨がダイレクトに熊本市まで流出する形になっています(図1)。

白川流域
図1 白川流域

単純な流域です。上流に降った雨は上流の水位観測地点でピークが観測されたあと約3時間後には基準点の世継橋でピークが観測されます。

この原理を応用した洪水予測を1986年を開発、白川に適用しました(文献7、1988年に発表)。3時間予測の計算結果は図2に示すように極めて精度が高く、計算結果はその当時の熊本工事事務所にコンサル経由で納品された筈です。川内川と遠賀川工事事務所にも納品されました。遠賀川に納入された16bitパソコンPC9801VM2とN88BASICによるプログラムを用いると1時間ステップで3時間先まで予測計算可能でした。しかし当時はパソコンと計測データはオンラインでつながっていなかったため、出水時期にいちいちデータを入力せねばならず、結局埃をかぶってしまいました。我々は早すぎたのかもしれません。

白川3時間予測結果
図2 白川における3時間先の水位予測計算結果(文献7より)

3.住民への直接情報伝達

住民へ情報伝達をする手段を市町村は持ち合わせていないところがほとんどです。防災無線の戸別受信機、エリアメール、TVやラジオ放送などを通じて伝達しますが、必ず漏れが発生します。そこで、意思決定に時間がかかる市町村や夜中は視聴されていない放送をパスしてや住民に直接知らせようと、国交省ホームページの降雨と水位の情報だけで最寄りの河川が氾濫しないかを上記のプログラムを改良して予測計算をスマートフォンで行なうことを考えました(図3)。これは、行政はデータを出し市民が利用しやすいプログラムを作るというGov2.0の考え方に沿ったものと言えます。

この方法で助成基金取得に有利なように新規性と独創性を担保するため2009年に特許を取得しました。昨年度は緑川のデータを熊本河川国道事務所より頂いて、データを整理し、プログラムを作成しようとしていたところでした。

直接防災情報を住民へ
図3 昨年度まで使っていた説明資料(現在は所属が変わっているので修正中)

同じ事は土砂災害にも言えます。土砂災害も水俣の土石流発生以降7年かけて土砂災害危険度マップを知らせる防災情報システムを作成し(図4)、スマートフォンを介して住民へ直接プッシュ配信をするシステムを作成していたところでした。昨年度は八代河川国道事務所の所長から「流域の市町村が土砂災害について懸念しているのでなんとかならないだろうか」と相談を受け、熊本県砂防課に土砂災害の履歴データの提供を要請したのですが、データが整理されておらず、平成15年のデータまで元データから収集したところでした。両方とも出来るだけ早く検証を終えて実証実験に移りたいと考えています。 

 

水俣防災情報システムー土砂災害危険度マップ

図4 水俣における土砂災害危険度マップ

 

謝辞

この防災情報システムは、NPO法人楽しいモグラクラブと崇城大学情報学科和泉信生助教、NPO法人防災ネット研究所および(有)シエスタクラブ中山比佐雄氏の協力を得ています。

 

参考文献

1)giSight を用いた災害時要援護者マップの開発、森山聡之・今匡太郎・平野宗夫・中山比佐雄、土木学会年講、2010  

2)森山聡之、平野宗夫、中山比佐雄、河川氾濫情報を導出する端末およびプログラム、特許第4323565号、出願日2009年3月30日、認証日2009年6月2日

3)森山 聡之,松本健一,中山比佐雄,今 匡太郎,平野宗夫,疋田 誠,水俣久木野地区を中心とした地域情報共有システムの構築,不知火海・球磨川流域圏学会誌、第3巻、2009

4)森山 聡之・中山 比佐雄 ・今 匡太郎・平野 宗夫・疋田 誠,giSight を用いた防災システムの開発,日本災害情報学会第10 回学会大会予稿集,2008, pp.275-280   

5)平野宗夫・森山聡之・山下三平・中山比佐雄、「洪水位の短時間予測に関する研究」、第3 1 回土木学会、水理講演会論文集、137-142,(1987)

6)森山聡之・平野宗夫・中山比佐雄・松尾景治・鐵谷浩之、「レーダ雨量計を用いた洪水位の短時間予測」、第3 3 回土木学会、水理講演会論文集、85-91,(1989)

7)平野宗夫・ 森山聡之・ 山下三平・鐵谷浩之ほか、Real-Time Forecasting for Stages of a Flash Flood (part2), 6th IAHR-APD ,pp379-384,July, 1988